NEDO先導研究プログラム採択、低純度スクラップから高純度アルミニウムへのリサイクルの実現へ ~産官学連携で社会実装に向けた研究開発をスタート、廃棄物削減やCO?排出量削減に貢献~

掲載日2024.08.23
最新研究

理工学部 化学?生命理工学科 化学コース
准教授 宇井幸一
物理化学、電気化学、無機化学

国立大学法人岩手大学(所在地:岩手県盛岡市、球探足球比分:小川智)は 、株式会社UACJ(本社:東京都千代田区、代表取締役:田中信二)、国立大学法人北海道大学(所在地:北海道札幌市、総長:寳金清博)、国立大学法人千葉大学(所在地:千葉県千葉市、球探足球比分:横手幸太郎)、国立大学法人京都大学(所在地:京都府京都市、総長:湊長博)、日本軽金属株式会社(所在地:東京都港区、代表取締役社長:岡本一郎)とともに実施する、低純度スクラップから高純度アルミニウムへの新規リサイクル手法の実用化に向けた研究開発について、国立研究開発法人新エネルギー?産業技術総合開発機構(本部:神奈川県川崎市、理事長:斎藤保、以下「NEDO」)の先導プログラムに採択され、研究開発を開始することになりましたので、お知らせします。

今回採択された「低温型電解法によるアルミニウムの高純度化プロセスの研究開発」は、NEDO先導研究プログラムの中の、エネルギー?環境新技術先導研究プログラムの一つです。当該プログラムは、脱炭素社会の実現や新産業の創出に向けて、課題解決に資する技術シーズを発掘?育成することを目的としたもので、当該プログラム内で我々が行う研究開発は、2024年度から2年間実施します。中間評価で認められれば、さらに2026年度まで1年間延長となり、計3年間の研究開発が実施されることとなります。研究開発を経て、その後は国家プロジェクトや産学連携体制による共同開発などにつなげ、社会実装されていくことが期待されています。

本研究開発は、これまで廃棄されていた低純度スクラップなどを、新地金相当の純度または電子材料や航空宇宙材料などに使用される高純度アルミニウムにアップグレードリサイクルするものです。一般的に工業生産されているアルミニウムは、約1,000℃で溶かし純度の高いアルミニウムを電析させる方法で精製されます。今回は、150℃以下の低温下で、固体のスクラップから固体のまま高純度アルミニウムを精製する「低温型電解法」を使用します。現行の製錬技術である「ホール?エルー法」や「三層電解法」と比較して、消費電力を25%以下に削減可能なことがラボスケールで確認できており、大幅なCO?の排出量削減が期待できます。本電解法については、量産化が課題であり、実用化に向けて大型の設備で実施するための研究開発を行っていきます。本研究開発が実用化されれば、低純度スクラップを廃棄せず、再生利用できるようになり、廃棄物の削減やCO?排出量削減をはじめ、輸入に依存せず、国内でのアルミニウム資源の確保に貢献できます。
なお、本学の代表者は、理工学部宇井幸一准教授で、Alの析出形態制御技術の開発を担当します。
また、本研究開発は2014年度から2022年度に実施したNEDOプロジェクト「革新的新構造材料等研究開発/アルミニウム材新製造プロセス技術開発」による研究成果をベースとして実施するもので、2014~2018年度に実施した研究開発項目「連続電析箔の膜質の支配要因の調査」についての研究成果及びその成果をベースに実施した2020~2022年度に実施した研究項目「高速電析技術の開発」についての研究成果は、それぞれ以下のとおり学術誌に掲載されました。

2014~2018年度の研究成果

研究開発項目:「連続電析箔の膜質の支配要因の調査」
掲載誌:米国電気化学会の会誌「Journal of The Electrochemical Society」
DOI: 10.1149/1945-7111/abfab5
研究成果のポイント:
?電解Al箔の成膜速度の向上には電解温度を上昇させる必要があり、および電解Al箔の平滑性を向上させるためには電解質への1,10-フェナントロリン無水物(OP)の添加が必要であることを明らかにした。
?電解温度50℃でOP添加浴より得た電解Al箔の成膜速度は0.872μm min??(電流密度52.6mA cm??)、表面粗さ(Sa)45.8nm が得られた。

2020~2022年度の研究成果

研究開発項目:「高速電析技術の開発」
掲載誌:日本の電気化学会の会誌「Electrochemistry」
DOI: 10.5796/electrochemistry.24-00047
研究成果のポイント:
?電力原単位を改善するには動作温度を上げる必要があることを明らかにした。
?Al電析物が脱落しないように組織内で{100}面を優先配向させることでAl電析物の表面粗さを改善し、陰極での電流効率(Al回収を意味する)を改善する必要があることを明らかにした。
?動作温度が60-80℃では、OP添加効果が発現するため、電流効率90%以上を示したが、動作温度が90℃以上では、OP添加効果が低下するため、電流効率90%未満となることが明らかとなった。

岩手大学は、今後も産学官で連携し、アルミニウム循環型経済のさらなる推進を目指して、研究開発を進めてまいります。

低温型電解法のイメージ図
「低温型電解法によるアルミニウムの高純度化プロセスの研究開発」におけるアップグレードリサイクルのイメージ図
本件に関する問い合わせ先

理工学部 化学?生命理工学科 化学コース
准教授 宇井 幸一
019-621-6340
kui@iwate-u.ac.jp